パリテ通信 第2回

政治のパリテ

 今年、2018年から施行されていた「候補者男女均等法」(正式名称:政治分野における男女共同参画の推進に関する法律)の改正法が成立した。この法律は、公職選挙での女性と男性の候補者を半数ずつにするように政党や政治団体に求める日本の法律である。

モデルになったのはフランスの「パリテ」法だが、強制性のあるフランス法とは異なって、日本法の男女同数の候補者擁立は努力義務にとどまり、ペナルティはない。今回の改正でもこの点に変化はなかった。この分野での日本の著しい停滞を考えると、女性と男性の候補者の同数擁立を罰則付きで義務付けることも、引き続き真剣に考えられるべきであろう。

 ただ、この点モデルとなっているフランスでも一足飛びに男女同数状態が現実化したわけではない。2000年に政治領域でのパリテを導入して以来、度重なる法改正により、その及ぶ範囲や実効性を高めてきたという経緯がある 。今回は、その現状を確認してみたい。選挙制度との関係も重要なポイントである。

比例代表制での実績―男女交互の名簿登載は即効性

 導入以来、パリテは社会領域を貫くべき原則として拡大してきたが(第1回参照)、もちろん原点は政治領域でのパリテである。その方式は対象となる選挙制度によって異なっている。

 

 現在、比例代表で行われる選挙では、厳密な男女同数候補の名簿登載が義務付けられている。候補者が同数となるだけではなく、男女の候補者が交互に記載されることも義務である。これらの要件を満たさない名簿は無効であり受理されない。ほぼ同数の女性と男性の候補者が確保され、男性が名簿上位を独占することもできないので、その効力は非常に大きくなる。これを書いている2021年時点、比例代表で選挙される職は、基礎自治体であるコミューン(市町村)の議会、地域圏議会、欧州議会の議員と国会の上院にあたる元老院の議員の一部であるが、これらでのパリテへの接近率は良好である。

 中でも模範的とされるのは欧州議会である。例えば2019年の選挙で選出された79人の仏選出議員のうち、女性は39人、男性は40人で、ほぼ同数の効果が達成されている。

 2003年の法改正から厳密な名簿の交互登載が義務付けられた地域圏(県と国の中間に位置する地方公共団体)の議会でも、女性の割合は48.6%とパリテがほぼ実現している。

 次は、コミューンである。当初、女男交互登載義務は人口3500人以上のコミューンに限定されていたが、2014年からは人口1000人以上のコミューンにもこの義務が拡大した。この結果、コミューン議会に占める女性議員の割合も33%(2001年)から42.4%(2020年)にまで上昇している。


InseeCollectivités locales 欧州議会のデータを元に齊藤作成

女性の「サブ」化

 

 他方、全コミューンの74%を占める人口1000人未満のコミューンについては、現在でもパリテは法的に強制されていない。2020年の選挙後、これらの小規模なコミューンでの女性議員の割合は37.6%にとどまっている。

また全体を通じて女性首長は少ない。2020年の選挙後でも女性のコミューン長は20%弱、女性の県議会長20%、女性の地域圏議会長31%となっている。名簿式選挙で男女交互登載が義務であっても、トップの職に就く名簿1位の候補者が結局男性であることが多いことも原因である。逆に、助役や副会長といった「サブ」ポジションとなると、数値は一気にパリテに近づく。このように総数が増えても、女性が「サブカテゴリ―」となる問題は執拗に残っている。


出典:Collectivités locales


パリテの「死角」ー小選挙区制

 より問題含みなのは、多数代表制で選出される国会議員である。多数代表とは、多数の支持を獲得した候補者のみを当選させる制度で、定数1の小選挙区制や大統領選挙がよい例である。フランスの下院にあたる国民議会選挙は、小選挙区制をとる。ここでは先に見たような女男同数の候補者を擁立しないと立候補を受け付けない、というような自動的に実効性を確保する仕組みはとられていない。候補者数に占める男女の開きが全候補者数の2%を超えたときから、その開きに応じて公的助成金を減額するという方式が選ばれている。

 それでも、1997年に10.9%であった女性の下院議員の数は、2017年の選挙後38.8%に達した。この数値は過去最高で、20年間で倍増した計算となる。しかし、パリテを実現したとも言い難く、比例代表制でのパリテとの効果の差異は明らかである。

パリテよりペナルティを選んだ主要政党

 実のところ主要政党は、男女同数候補を立てるよりも、この一種の「罰金」を払うことを明らかに選んできた。2012年、下院選挙での女性候補者の割合は全体の40%である。パリテ導入時の与党であった社会党ですら、この時の女性候補者の割合は42.6%、保守の共和党に至っては25.5%であった[i]。このような状況を背景に2014年の法改正で、減額率は倍増された。2017年の選挙で、共和党が減額された補助金の額は年間180万ユーロで、これは任期満了までの5年間で計算するとなんと900万ユーロ(約12億6000万円)にも上る。党にとって看過できない金額となったのであろう。党執行部が、地方組織の幹部に対して2022年の下院選挙では男女候補者を同数擁立するように要請したことが報じられている[ii]。

上院では比例代表の拡大がカギに

 上院では、2017年選挙後も女性議員の割合は、32.1%と高くない。2014年の選挙後は25%であったので、やはり増加はしている。上院の選挙制度は特殊だが、単純化して言うと、定数3以上の選挙区では比例代表制、それを下回る選挙区では定数1あるいは2の多数代表制がとられている。この定数2以下の選挙区でパリテを義務付ける規制は何もない。その結果、2017年の選挙でこれら選挙区の候補者に女性が占める割合は5人の1人と非常に低くなった[iii]。

比例代表選出分については、地方選挙同様の厳格なパリテが課される。このためパリテの進展は比例代表部分に依存することになる。2013年には比例代表が適用される選挙区を拡大する法改正が行われており、女性上院議員の増加に貢献した。

ペア立候補方式も有効

 ただし多数代表の選挙制度でも、パリテが実現できないわけではない。遅れてパリテの適用対象となった県議会議員選挙の選挙制度は比例代表ではなく、多数代表である。しかし女性と男性のペアでの立候補が義務付けられているため、比例代表をとらなくとも実効性ある結果が示されている。2011年には13.8%だった女性議員の割合は、この厳格なパリテの導入を境に、2015年以降50%を達成し続けている。

おわりに

 日本の候補者均等法に比べると、最初からある程度の強制力を持って出発した本家フランスのパリテだが、実効的な強制性がなければ前進が難しいこと、選挙制度に即した漸進的な改良が必要でありこともまた示されている。比例代表制はパリテになじみ易く、日本でも比較的実現しやすいのではないだろうか。他方で、女性候補者にとっては元々ハードルの高い小選挙区でどのように実効性を確保するのか、女性の「サブ」化の問題が執拗に残り続けていることをどう解決するか、など様々な課題を意識させるものとなっている。

【参考文献】

糠塚康江『パリテの論理』(信山社、2005年)

同『現代代表制と民主主義』(日本評論社、2010年)第4章

同「候補者男女均等法の今後の展開-フランスにおけるパリテの経験から」国際女性No.32(2018)

2021年9月20日脱稿



[i] https://www.haut-conseil-egalite.gouv.fr/IMG/png/tableau_retenues_sur_les_dotations.png

[ii] https://www.elle.fr/Societe/News/Elues-les-Republicains-avancent-vers-la-parite-a-tous-petits-pas-3905093

[iii] https://www.haut-conseil-egalite.gouv.fr/IMG/pdf/hce_avis_parite_elections_senatoriales_v2.pdf p.3