イベントの記録
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2024年8月4日第3回公開シンポジウム「産む権利/産まない権利―リプロダクティブ・ライツの現在(いま)」
▶ご紹介できなかったご質問事項とそれへのご回答(二宮周平)
1)昭和38年の最高裁判決は、産んだ女性が認知していないが実母と認めてほしいという訴えに対する大岡裁きの傍論に「だって産んだんだから」と書かれていたことが文面だけ適用されて、条文が実質的に無効化されたためだと思いますが、本来、母としての責任が果たせない未婚の母に配慮して現行の条文が作られたと思いますが、この文面だけの形式的な最高裁傍論の適用について、学界では議論はないのでしょうか?(TKさん)
(石黒氏からのご回答)
ありがとうございます。
私自身が学界の議論を追えている訳ではないこと申し訳ありません。
私の調べた限りでは、昭和37年判決以降、母子関係の発生に例外を認めるか否か、という点が中心となっているようです。
元々判例は、認知必要説に立っていましたが、昭和37年で(親子関係の)当然発生説に立ちました。ただ、ここでは「原則として、母の認知を俟たず、分娩の事実により・・・」と判示していることから、純粋な当然発生説ではなくいとされています。
簡単に37年判決以前の学説について整理しますと、認知必要説は、以下の論拠を挙げていたようです(松本タミ.1976年.『母と非嫡出子間の親子関係と認知』,法学セミナー,6月号,79頁)。
①形式的に民法の規定を無視できない
②実質的に何らかの事情で子の出生の秘密が隠されているような場合、当事者の意思や希望に従って母子関係が認知で公けにされるとする方が法政策的に妥当性を持つ
③生み放しにして子の養育もせず、子が成人の後、名乗り出て、分娩の事実だけで子に対して扶養や相続に預かることになるのは疑問であること。
これに対して、当然発生説は、親子関係のような身分関係は自然的事実的な関係であって認知の有無により左右されるべき事柄ではなく、父子関係で認知が要求されているからといって母子関係までそのように考えることはない、分娩という生理的事実によって明瞭であることから認知を必要とすべきでない、という批判がなされています。※例外的な場合に限って認知を必要とする折衷説もあります。
37判決以降は、「原則として、」とする最高裁に、どのような場合が例外に当たるのか、として、①棄児、②他人の子として出生届がなされている子、③赤ちゃんの取り違え、といったケースが整理されています(床谷文雄.『認知訴訟と母子関係の立証』,法律時報,61巻,2号,119頁))
2)子が出自を知る権利の中には父を知る権利もありますね? 俺の子供じゃないと逃げ回る父親に強制認知させることができる場合が日本では非常に限られていて、スウェーデンのように公的な機関が父親を探す制度と比べて極めて劣っているのことは、出自を知る権利との関係で学界では議論はありますか?(TKさん)
(石黒氏からのご回答)
ありがとうございます。
もちろん、父を知る権利も問題になりますが、内密出産における子の出自を知る権利に関して、男性の責任を追及する制度の議論は私個人としてはあまり存じ上げません。もっとも、この内密出産の利用にあたっては、父親が責任を果たさずに、母親だけが責任を負う構造が大きく影響するため、政策として併せて考えるということは賛同します。実際に、フランスでも匿名出産制度だけが存在するわけでは当然なく、父がD N A検査を拒否した場合には父子関係が決定されるそうです。
3)「緊急避難的」ということが後ろめたい感情につながるというのは、当事者のご意見なのでしょうか? 一般的な「緊急避難」の語彙には、何かを守るために仕方なかったというニュアンスこそあれ、少なくとも「本人が避ける努力をすべきであった」というような意味合いはないように思うのですが、もし匿名出産や緊急避妊にのみそのようなニュアンスが加わって利用をためらうとすれば、それ自体が内面化された差別の産物であるように思います。そうであれば社会が悪いので、そういう受け止め方をする当事者の方を批判するわけではありませんが、本来は十分に避妊方法や緊急避妊薬についての教育を行い、それらの手段に安価にアクセスできる社会を作ることが必要であり、その意味で匿名出産は社会が変わるまで権利を守るためにやむを得ないものとしてまさに「緊急避難」であるように思います。(Iさん)
(石黒氏からのご回答)
ありがとうございます。
いただいたコメントに賛同させていただきます。
イメージに合う言葉として、何がいいかと考えており「緊急避難的」という言葉を私が選びました。これは民法や刑法の緊急避難を例に「望ましくないけど、仕方がない」というニュアンスがあるように感じており、社会の空気としては、そのような印象があるのでは、と感じていたからでした。妊娠を明かすことのできない誰かを救うための仕組みとして重要であることは全く異論ございません。内密出産という選択肢を選んでも、後ろ指を指されない社会こそが健全ではないのか、とも思っています。そのためには権利として明確にしておきたい、というのがお伝えしたかったことでした。
4)生殖補助医療における配偶子提供者の身元を知るという意味での「出自を知る権利」は、親としての責任を伴わない、子のアイデンティティのための情報提供の制度ですが、匿名出産における「出自を知る権利」は、制度設計にもよりますが、場合によっては親としての責任を追求しうる契機を含みうるものだと思われます(自分を捨てた・認知しなかった父に強制認知請求ができるのであれば、母にも同様の可能性がある)。そうであるならば、それを「母」に対してのみ主張できるというのは男女の不均衡であり、「父」を追求しうる権利とセットにして初めて正当化されるものではないでしょうか。(Iさん)
(石黒氏からのご回答)
ありがとうございます。
強制認知との関係で申し上げますと、内密出産で生まれた子は、現在は単独戸籍が作られることになりますので、その後の特別養子縁組含め、同じような議論になると思います。
また、出自を知る権利には、父も含むものと考えます。子の出自を知る権利と対立軸で女性の権利が考えられがちですが、実際には母子の権利の対立という次元ではなく、女性が秘密を守られながら子が安全に生まれた先に出自を知る権利があるという理解です。そして、この出自を知る権利には父母についても含まれますから、実際に父がどのような名前だったのか、どのような見た目だったのか、仕事はどんなことをしていたのか、など父に関する情報についても、残せるのであれば望ましいことは匿名・内密出産においても変わりません。
2023年7月9日第3回公開シンポジウム
「21世紀の人権保障としての婚姻の自由・平等――国際比較から 」
2022年7月24日第2回公開シンポジウム
「日本のジェンダー平等を国際基準に ―参議院議員選挙結果を踏まえて― 」
▶録画動画
第1部 参議院議員選挙結果から展望する日本政治の課題→動画 (下部左)
プレゼンテーション+対談 プレゼンター:中北浩爾(一橋大学大学院社会学研究科教授) ディスカサント:大山礼子(ジェンダー法政策研究所共同代表、駒澤大学教授)
第2部 地方議会の声を国会に届けよう→動画 (下部右)
プレゼンテーション ①浅倉むつ子「女性差別撤廃条約実現アクションがめざしているもの」
②石田絹子・西村かつみ(ワーキングウイメンズネットワーク(WWN)共同代表/女性差別撤廃条約実現アクション大阪)「大阪では全44議会が意見書を採択」
2022年6月5日第1回公開シンポジウム「政治はなぜ夫婦に氏の選択を認めないのか―日本のジェンダー平等政策と国会-」
▶録画動画
砂原庸介「政治と世論:争点のズレを考える」→動画(下部・左上)
二宮周平「夫婦同氏強制と闘うために 理論編「個人の尊重と夫婦同等の権利」」→動画(下部・右上)
青野慶久「夫婦同氏強制と闘うために 裁判外闘争「落選運動『ヤシノミ作戦』」 」→動画(下部・左下)
▶ご紹介できなかったご質問事項とそれへのご回答(二宮周平)
Q1 判決文の氏名表記について:事前に裁判長に自分の固有の氏名(婚姻前の姓)で表記するよう請願していたにもかかわらず、本人の同意も得ないで戸籍姓と旧姓を併記された。プライバシー侵害として損害賠償請求はできないだろうか。裁判官は旧姓のみを判決文に記載できるのに、なぜ裁判の当事者は旧姓併記にするのか、ダブルスタンダードではないか。
A1 判決文の氏名は、当事者の表記として他人と識別し本人を特定することができればよいのだから、事前に申し入れをしていれば、旧姓のみ表記で問題ないはず。ダブルスタンダードは不公平だと思う。また、本人の同意なく旧姓を併記するのは、プライバシー侵害に当たると思う。訴訟提起によってメディアを通して問題点を明確化する意味はあると思うが、戸籍姓の記載は識別特定に必要だとして違法性が認定されず、棄却される可能性もある。
Q2 宮崎=宇賀共同反対意見が女性差別撤廃委員会の総括所見に言及したことを、どう捉えるか。
A2 同反対意見は、政府が3度目の勧告を受けたこと、その後も法改正をしなかったことを、夫婦同氏制が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものであることを基礎付ける有力な根拠の一つとなり、憲法24条2項違反とする理由の一つとなると考えられるとし、本件のいて考慮すべきであるとした。少数意見とはいえ、裁判官が条約の法的拘束力を認め、勧告を受けた事実を考慮事項としたことは、初めてであり、踏み込んだ見解として高く評価する。