ジェンダー法政策研究HP
女性の権利の歩み
朝日新聞 2021年5月3日 特集 ジェンダー平等について (辻村みよ子レジメ)
一 世界と日本の女性の権利獲得の歴史
フランス人権宣言以降の世界のジェンダーに関する歴史と、明治維新以来の日本の歴史を概観する
歴史的展開
Ⅰ 近代的人権確立期・・・・・・・・第1次リベラル・フェミニズム(黎明期)
18世紀後半~19世紀後半
アメリカ独立宣言(1776) ⇒(1848) E.スタントン等 女性の所信宣言
フランス人権宣言(1789) ⇒ (1791) O.ドゥ・グージュ 女性の権利宣言
⇒イギリス、メアリ・ウルストンクラフト
*(原則)男性の権利を女性にも与えよ。(男並み平等)
*グージュは、男女の社会契約・婚外子の権利等を要求
Ⅱ 女性の参政権運動期・・・・・・・第2次リベラル・フェミニズム(活動期)
19世紀後半~第1次世界大戦~第2次世界大戦 + 社会主義フェミニズム・ワイマール憲法
米・ワイオミング州(1869)、1890参政権協会⇒1920年実現
英・参政権運動(1966、ミルの請願)⇒1927年実現
仏・パリコミューン(1871)、1881 参政権協会⇒1945年実現
露・ロシア革命 (1917)女性参政権
独・ワイマール憲法(1919)、1893・1902 ニュージーランド、豪、北欧諸国女性参政権獲得
⇒国連・国連憲章(1945)、男女平等原理の宣言
Ⅲ 現代平等憲法確立期・・・・・・・第3次リベラル・フェミニズム期
⇒(英米)ラディカル・フェミニズム期
第2次大戦後、現代憲法制定期、国連「女性の10年」1975~1985、
*女性差別撤廃、男女平等原則の拡大(日本では1970年代ウーマンリブ期)
1946 フランス第4共和政憲法・日本国憲法
1947 イタリア憲法、1949 ドイツ連邦共和国基本法
1967女性差別撤廃宣言、1975-85 女性の10年
1979女性差別撤廃条約
Ⅳ 親密圏・ジェンダー平等論(男女共同参画)への転換期・・・ポスト・フェミニズム期
1980年代以降、フェミニズムの終焉 ⇒ジェンダー平等論(LGBTQ含む)
日本:1985~ 条約批准・均等法時代 セクハラ・DVの問題提起
⇒1994男女共同参画審議会⇒ 1999男女共同参画社会基本法、2001 DV法
国連・英米:ジェンダーの主流化、世界女性会議(北京会議1995)
1999 女性差別撤廃条約選択議定書(「女性の人権」の効率的定着へ)
⇒SDGs 2030年達成目標
フランス:1999憲法改正によるパリテ法実現、パリテ監視委員会による実効化
政権与党による改革
日本戦後史のなかのジェンダー平等の展開
Ⅰ 戦後初期
1945.10 GHQ五大改革 幣原内閣女性参政権容認
11.3新日本婦人有権者同盟
1946.4.10 帝国議会選挙 女性8.4% 39名当選
11 日本国憲法制定
1947.4 総選挙 女性15名に減少~2005年43人当選まで、1946年を超えられず
5 憲法施行、民法改正・家制度廃止
Ⅱ 1955年体制確立・高度経済成長期
1955~ 1985 女性差別撤廃条約批准(1985)
自民党単独政権・配偶者控除
性別役割分業構造の確立 ⇒1993 政権交代 自社さ政権
Ⅲ 政権交代・男女共同参画社会基本法以後 小泉内閣・2006第一次安倍内閣
1985~ 1994政権交代 羽田・村山内閣自社さ政権~1996橋本内閣~
自自公、2001小泉内閣 PA研究会
1996民法改正草案要綱
1999基本法、2000基本計画・条例 2001~DV,セクハラ・ストーカー法 2003 推進本部決定 202030 2003年ジェンダー法学会創立
⇒2005年頃からバックラッシュ顕著・日本会議等
Ⅳ 2009 民主党政権 第3次男女共同参画基本計画、PA重視
均等法・DV法等改正
Ⅴ 2012 自公政権、安倍長期政権
女性の活躍推進を標榜、実態は男性中心の金権・世襲・派閥政治
⇒ 202030の目標は2020年までに達成できず
2020 第5次基本計画では自民党保守派(山谷えり子ら日本会議派)の介入で選択的別姓の文言削除 ⇒ 2021 自民党内に2つの議連+WT
世界の歴史的展開から見る「ポイント」
男並み平等から(差別撤廃)から個人尊重・女性の人権へ
(女性のための)フェミニズムから、ジェンダー平等へ(LGBTの影響)
権利宣言から説明責任要求(demanding accountability)へ
権利の実効化、政権担当の意義強調、
⇒政権与党・責任政党がジェンダー平等に積極的な国は、成果が大きい
イギリス1975年性差別禁止法、1996労働党政権 AWS ⇒ 法改正
フランス 社会党ミッテラン政権下の憲法改正、パリテ法確立
日本:政権交代(細川内閣)・自社さ政権下の男女共同参画構想、
民法改正草案要綱⇒ その後の安倍長期政権で未達成
⇒日本は、55年体制以降、保守的与党が性別役割分業体制を確立
日本国憲法の形骸化、女性差別撤廃条約の軽視(選択議定書未署名等)
自民党改憲草案(2012)における24条・13条改正案(家族制度・人権)
二 なぜ日本でジェンダーギャップは拡大するのか
世界経済フーラムのリポートでは世界120位、political empowermentでは147位という結果。テキストと現実のこのギャップを憲法論としてどうとらえたらいいか
(1)日本の現実(GGI政治147位)を招いた根源的原因
1)1970年代 高度経済成長期の性別役割分業の固定化
*1955年体制の政界・財界癒着⇒専業主婦優遇(配偶者控除)政策
*保守政党の経済優先政策(人権、個人尊重の無視)
*家庭内・企業内の性別役割分担構造の定着(「永久凍土」化)
*女性の政治参画の例外的取扱い
2)40年間の一党独裁政治・野党の無力、政権交代がなかったことの弊害
*野党のジェンダー視点・取組不足(2021立憲民主党の女性候補者
30%クオータ導入?)
*ポジティブ・アクションなど、制度的取組の不足
(諸外国の取組に比して著しく遅い。フランスのパリテ、ペア式等)
*「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」(中川正春会長)超党派の運動に期待するしかない構造(2018年政治分野の男女共同参画推進法)・政党内の意識啓発不足
3)選挙制度の問題
*小選挙区制の場合は、女性議員を増やすことが困難(候補者クオータを厳格化する方法が必要。政党助成金による強制など、フランス・韓国の例参照)
*日本の比例代表制はクオータを導入しにくい(参議院、非拘束名簿型)
*そもそも重複立候補制が障害となるが、選挙制度改正しない前提が存在
⇒選挙法改正して、ジェンダー平等を実現する本気度が低い
(韓国は、2005年に比例代表選挙制に、強制型のクオータを世界最初に導入、ただし、韓国の比例部分は定数の6分の1程度) 日本でも政党助成金でインセンテイブをつける方法があるが、法改正は望まない環境は不変
*長年の投票価値不平等(都会の1票の価値が低く、政変が起こりにくい)
民主主義のレベル、地方の保守性、地方の女性議員の活躍が少ない
*地方議会の女性議員比率10%台
*金権政治・3バン政治の悪弊
*女性候補の不足(意識・能力)・環境
5)国民の意識・投票行動――性別に注目しないことは正しい、が。
公約チェックが不足。教育・環境・安全・福祉等に関する公約のチェックと監視が必要不可欠。
今後の課題
国会議員の地位の見直し(社会的・経済的メリットを減ずる)
歳費等収入を下げる、世襲の禁止、議員定数削減、
cf. 北欧諸国のボランティアの位置づけ、候補者の多様化
選挙制度の改正
クオータ制(候補者クオータ)の導入、政党助成法の改正(インセンティブ、韓国型)、参議院比例選挙の拘束名簿式化(男女交互名緒、6人中3人名簿等)
被選挙権年齢を下げる(候補者の多様化、若者・女性等が立候補しやすい環境の整備)
地方政治の民主化
女性候補者・政治家の実践訓練の場の確保、育休等の制度整備も必要
女性候補者への財政支援 (選挙運動経費削減・公費負担等含む)
日本版エミリーズリストの実施、政党内の支援活動等
高等教育レベルの改善(日本のレベルが低い現状の改善)
リーダー養成校、理系分野等の合憲的なポジティブ・アクション
女性研究者の育成・強化、専門家・政治家の養成
ジェンダー教育の早期化 (大学からでは遅い)
ジェンダー統計、ジェンダー予算の強化
男女共同参画会議等の機能強化――実質的なナショナルマシーナリーを構築し、
監視権限を強化(各省庁・政党の介入を排除できる構造が必要)
8)男女共同参画局の予算・権限の強化 以上